これから建築士として独立し、建築士事務所(設計事務所)を開業するというとき。または、建設業者さんや宅建業者さんが新規事業として設計業務を立ち上げるとき。このような新規事業の開始にあたっては、あらかじめ事務所を設置する場所の都道府県知事(実際の窓口は建築士事務所協会のことが多いです)に対して、登録の手続きを行わなければなりません。
建築士事務所の登録が必要なのは?
そもそも建築士事務所の登録が必要なのは、どんな業務を行うときなのでしょう。このご質問は、これから建築士事務所の登録をご予定の方からご相談を受ける際、かなり頻繁に受ける質問の一つです。
建築士法第23条によると、以下のような業務を行う場合に、あらかじめ建築士事務所としての登録を行うことが義務づけられています。
- 建築物の設計
- 建築物の工事監理
- 建築工事契約に関する事務
- 建築工事の指導監督
- 建築物に関する調査または鑑定
- 建築に関する法令または条例に基づく手続きの代理
実際に設計する事務所だけでなく、建築工事の契約事務を行う事務所も、通常は建築士事務所登録が必要となります。比較的規模の大きな建設会社では、事務契約のみを行う事務所を登録しなくて済むと勘違いされているケースも見受けられますので、要注意です。
もし上記に当てはまるのか否か、かなり微妙な業務を取り扱うというときは、無登録のまま見切りで営業を始めることは危険です。あらかじめ事務所を設置する場所の建築士事務所協会か、建築士事務所登録を取り扱う行政書士に相談しておきましょう。
建築士事務所登録にはどんな要件がある?
建築士事務所登録の要件には、主に以下のようなものがあります。
- 事務所となる場所が確保されていること
- 管理建築士が常勤で在籍していること
- 一定の欠格要件に該当していないこと
- 会社の場合は登記の目的に「建築物の設計・工事監理」などが含まれること
- 納税の証明が取れること(新設法人は法人開設届を提出していること)
事務所の場所自体は、建設業や宅建業(不動産業)ほど厳しい要件を課されません。ただし、法人の場合は登記上の所在と異なる場所に事務所を設置する際など、賃貸借契約書などで使用権限の証明を求められることもあります。
管理建築士については、次の項で説明します。
管理建築士とは?
管理建築士とは、その名前のとおり建築士事務所を管理する建築士のことで、 建築士事務所の登録は管理する建築士によって「一級建築士事務所」「二級建築士事務所」「木造建築士事務所」に分かれます。
管理建築士は専任性が求められるため、その事務所に常勤し、専ら管理建築士の職務を行わなければなりません。休日以外の営業日は、勤務時間中その事務所への勤務が求められます。
従って、他の会社で従業員として働いている人は常勤性が原則認められませんし、また住所地が事務所から遠隔にある人も、常勤しているとはいえないためこちらも原則認められません。
派遣社員も、管理建築士となることはできません。
管理建築士の可否が分かれるもの
他の法令により専任が義務づけられている役職等に就いている人は、原則管理建築士になることはできません。
もっとも、建設業許可上の専任技術者や、宅建業免許上の専任取引主任者などは、同一法人かつ同一営業所であることを条件に、管理建築士との兼務が認められる場合もあります(この点、どこまで兼任できるかの基準は、都道府県によって異なる場合があるのでご注意ください)。
また他社の代表取締役は、原則として管理建築士になることができません。ただし非常勤の取締役であれば、それを証明することで管理建築士として認められることもあります。
管理建築士が欠けたとき
建築士事務所の登録を行って事務所を開設した後、管理建築士が欠けてしまうと、建築士事務所の廃業届を提出して即廃業となります。
従って、比較的規模の大きな法人などで人事異動を行う際は、各事務所の管理建築士を誰が担っているのか、予め確認してください。
建設業の専任技術者、宅建業の宅地建物取引士と並び、建築士事務所の管理建築士についても、どの事務所で誰が担っているのか、把握・管理できるようにしておきましょう。
登録の流れは?
事務所登録は、主に以下のような手順で進みます。
- 証明資料の収集や申請書の作成
- 窓口(建築士事務所協会)への提出
- 手数料の納付
- 建築士事務所協会での審査
- 登録の完了、登録証の交付
登録申請書の提出方法は様々
建築士事務所協会への登録申請書提出は、直接持参が原則の場合、直接持参または郵送提出が可能な場合、郵送提出が原則の場合と、各都道府県によってバラバラです。
申請に行く前に、予め確認を取っておくほうが無駄足になりません。
手数料も事務所の種類や都道府県で異なる
また建築士事務所登録の際に必要な申請手数料の金額も、建築士事務所の種類(一級なのか二級なのか木造なのか)や都道府県によっても異なります。
通常、1万円から2万円程度となっています。
手続きに必要な期間(日数)
建築士事務所登録の申請書を提出してから登録証が発行されるまでに要する期間も、各都道府県建築士事務所協会によって異なります。
東京都の場合では、5日から10日前後で登録証が発行されることが多いですが、締め日の関係でそれ以上に日数がかかることもあります。
登録の際に必要な書類は?
登録申請の際、実際に用意が必要となる書類は、たとえば法人(会社)が登録する場合、以下のような内容となります。(東京都で登録する際の一般的な書類です)
書類名 | |
1. | 建築士事務所登録申請書 |
2. | 業務概要書(新規登録の場合は不要) |
3. | 所属建築士名簿 |
4. | 代表者の略歴書 |
5. | 管理建築士の略歴書 |
6. | 誓約書(欠格要件などに該当していないこと) |
7. | 定款の写し(代表印での原本証明も求められます) |
8. | 履歴事項全部証明書(申請時3ヶ月以内のもの) |
9. | 事務所の賃貸借契約書の写し(主に登記上の本店と異なる場合) |
10. | 法人事業税の納税証明書 |
11. | 管理建築士の住民票 |
12. | 建築士免許証(申請時に原本提示を求められます) |
13. | 管理建築士の前職場の退職証明書 |
14. | 管理建築士の専任証明(社名入りの健康保険証写しなど) |
15. | 管理建築士講習修了証の写し |
16. | 定期講習修了証の写し |
よく間違いがおこるのは、10番の納税証明書と15番の研修修了証です。
納税証明書は、税務署発行の法人税のものではなく、都道府県税事務所が発行する法人事業税のもので、かつ直近事業年度の期間と合致したものでなければなりません。
また管理建築士講習修了証は、「管理建築士」としての講習を修了していることを求められるため、16番の定期講習修了証では代用できませんのでご注意ください。
事務所を開設した後の義務はどんなものがある?
以上が建築士事務所登録の概要になりますが、登録が完了して事務所開設が可能になる反面、様々な義務も発生することになります。
たとえば事業年度修了後、一定期間内に業務実績等をとりまとめた「設計等の業務に関する報告書」(年次報告)の提出が求められるようになり、また登録事項に変更が生じた際の変更届の提出も14日以内に行わなければなりません。
その他、再委託の制限、帳簿および図書の保存、標識の掲示、書類の閲覧、設計・工事監理契約の際の重要事項説明、書面の交付、立ち入り検査への協力など様々な義務が生じるため、これらを把握して管理していくことになります。
行政書士に依頼する場合
建築士事務所の登録手続きは、行政書士に代行・サポートを依頼することも可能です。もし手続きの時間がなかなか取れない方、書類収集の手間を割きたくない方、そして建築士事務所を法人化して始めたい方など、登録手続きでお困りの方はご相談ください。